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序章

「何で助けた?」
助けてくれた老人に対して、子供が最初に言った言葉はこれだった。この時の老人は、子供のことを何も知らない。だから老人は子供が言った言葉に対し、理由を聞くために質問した。
「お前はあのまま、この世界から消えてしまいたかったのか?」
子供は俯いて答えない。老人はそんな子供の様子を伺いながら、別の言い方で聞いてみた。
「なら、生きているのが嫌なのか」
子供は下を向いたまま、老人の質問に頷いた。
「そうか、嫌か…。だが消えちまったらそこで終わり。大人にならなきゃ出来ないこと。夢や希望は叶わないぞ」
老人は子供を説得しようと試みる。しかし子供は頭を横に振る。
「何だ、お前夢がないのか? 大人になったらやりたい事とか、行きたい所とか」
子供は頭を縦に振る。子供の返事に声は無く、全てジェスチャーで返された。そんな子供の対応に、老人はふと肩を落とすと
「お前、そんなにヒマなのか」
と呆れたように呟いた。子供は老人の言い草に、顔を上げてムッとした。その時、子供は老人と、会って初めて目が合った。すると老人はしたり顔でニヤリとし
「よし! お前、今日から俺のゲームに付き合え」
と、子供に対して言い放つ。

「…?」
老人の意味不明な要求に、子供は怪訝な顔で拒絶した。しかし老人は対照的に、満面笑顔で説明する。
「お前、今まで生きて来た人生の中で、本当に困っている人を、本気で助けたことが一度でもあるか? いやぁ、お前さんの歳じゃぁ、まだ無いだろうな。だからな。これから俺とお前で、本当に困っている人を見つけたら、本当の本気で助けてやる。それで、これから毎日、助けた数と感謝された数を、俺とお前で競争する。って言うゲームをやろうってことだ。どうだ? なかなかいいアイデアだろう!」
子供は老人の失礼かつ不可解な提案に、今までの怪訝な表情の上に、疑惑の色を上乗せた。老人はそんな子供の顔色に
「なんだ? 気に入らないのか。だがお前は生きているのが嫌になるほどヒマなんだろう? ならその無駄な時間を、困っている人にくれてやってもいいだろうが。人間、生きてる間に何かを成し遂げるには、力と時間が必要だ。だが皮肉なことに、どうしてもやりたい事がある奴に限って、途中で終わっちまうことが多いんだ。だがお前は今、やりたい事がないんだろう? だったらその時間を、困っている人に使ってやれ。忙しくて忙しくて、下らないことなんか忘れちまうくらいにな」
老人の笑顔と逆に、子供は徐々に俯いた。老人は子供の暗い目に、笑顔も声も消えて行く。
老人は子供の様子に溜息を吐くと、愚痴るように呟いた。
「まぁ…お前としては、生きているのが嫌でしょうがないのに、時間が無くて困っている奴の事なんか、どうでもいいのかもしれんがな」
子供に老人の心は届かない。だが老人も子供をこのまま放って置けず、長い時間を沈黙する。

どのくらい時間が経っただろうか、老人は別の提案を子供にする。
「ならこう言うのはどうだ? 今から俺は、お前をこの世界から消すつもりで対峙する」
子供は自分の耳を疑った。老人の顔を確認すると至って真面目な顔である。驚きと疑念で満ちた子供に、老人は話しの続きをする。
「本気の俺に攻撃してみろ。やり方は何でいい。もしお前の攻撃が俺に少しでも当たれば、この場でお前を消してやる。だがお前の攻撃が俺にカスリもしなければ、今後ゲームに付き合う。これでどうだ?」
老人の提案が異常である事は、子供も直ぐに理解した。ただし子供が老人の真偽について疑っているのは明らかで、子供自身も困惑し、返事が出来ずに戸惑っている。しかし老人は容赦無い。
「本気な訳がない、と思うか?」
と、老人は一旦目を瞑り、暫くして目を見開いた。
「本気でこの世界から消えたければ、全力で俺を攻撃しろ」
鬼の顔を子供に向けて、自身の本気を見せしめる。子供でも分かる、老人から放出される異常な気。子供はその圧力から、老人が怖ろしく強いと理解した。そして
(当たれば本当に殺される)
と、老人の本気に恐怖する。しかし同時に老人の言葉に偽りが無いと確信し、震える四肢で攻撃した。

しかし子供の攻撃はかすりもせず、老人は直ぐに気を解いた。
「…」
子供はその場に座り込み、老人は子供の本気を知る。攻撃が当たらず落ち込む様子に、世知辛さを思い知る。
(普通大人でも、攻撃しないか逃げるかのどちらかになる。稀に攻撃して来る輩もいるが、その場合は本気じゃ無いと思っている。だがこの子は…)
老人は子供に向かい、寂しそうに語り出す。
「人を助けるっていうのは難しい。助けるつもりが実際は足を引っ張っていたりする。俺は七十年生きているが、その間自分が正解だと思う行動を取って来た。だが本当にそれで良かったのか…今日もお前を助けたつもりだったが、お前の今の態度はどうだ? 俺は助けたつもりでいたが、今はお前を助けて良かったと言う、自己満足すら得られ無い。もしかすると今までも、本当に助けたと言えることなんて、実は一度も無かったのかもしれん。本当に人助けなんて虚しいもんだ」
子供が聞いているのかは、老人には分からない。それでも老人は語り続ける。
「でもな。本気でやりたい事があったのに、途中で時間がなくなっちまった人っていうのは、それこそ化けて出てきそうなくらい悔しいもんなんだぞ。それに助けられた者を、時間が無くて見ないフリで見捨てた人の中には、見捨てた事を後悔して、自分を終わらせちまった奴もいる。そんな人の為に不要な時間を使うのは、ただ無駄にしている今よりも幾らかマシだと思わんか? 百人助けてダメなら千人。一万人失敗しても。本当に助けが必要な人をちゃんと助けるために、感謝されようがされまいが、迷惑掛けてドツボにハマろうが、死ぬほど嫌いな相手だろうが」
子供はこの時、老人が語る内容を殆ど理解して居なかった。ただ、これからはこの胡散臭いゲームに付き合わなければならない。それだけは理解した。
「まずは俺が一。お前を助けた」
老人は子供に自分の現在数を宣言する。
「俺、感謝してないぞ」
老人の申告数に子供は不服を訴える。しかし
「助けた数と感謝された数は同じじゃない。助けた所で本当に感謝してくれるのは一万人に一人かも知れん。余程のヒマ人か阿呆でないと、このゲームには誘えない」
とゲームのルールを補足する。
「で俺は無道出海。お前、名は?」
子供は愛想の無い顔で、老人に向けて返答した。
「…円城寺、仁」
「そうか、仁か。よろしくな」

十年後

栄市栄町の住宅地の中に、森のような区間がある。古い石壁で囲われて、壁内の木々は荒れたまま。門は頑丈そうな鉄柵で鎖で巻かれて閉じている。この無駄に大きい区画について、柵の隙間を覗いたことがある人は、森の奥にある建造物が病院であることは知っていた。しかし、持ち主については、近隣住民たちも知らないでいる。

その森の中。診察室とおぼしき部屋からキーボードを叩く音がする。そこには白衣の男が、机上のPCに向き合っていた。明りも付けず深妙な顔で、何やらぶつぶつと喋り出す。
ーーー五月十六日 午前一時十五分
「今の僕が、昔の僕と会えたなら、今、自分が存在する『この世界』のことを、どう言って説明するだろう?」
最後の文字をポンッ!と勢いよく入力すると、薄ら笑いに変わった顔で、椅子の背もたれに寄り掛かる。
(最初の書き出しはこれでいい)
白衣の男は、今日から日記をつけるつもりでいる。その試みは今まで挫折で終わっていた。しかし
(今回は絶対成功する。そんな気がする。なんたって今日は特別だ)
と、男が今回こそ継続出来る理由を確信した。その時。台所の電気ポットが、ぴーっ!とけたたましく合図した。闇夜に響く電子音。だが男はポットの音を気に留めず、近くに置いた古めの新聞を手に取った。
ーーー五月九日、栄市立栄中前の大通り交差点にて、午後七時三十分ごろ交通事故が発生した。被害者は同中学校の生徒二人。一人は死亡、一人は意識不明の重体。
男が読んだ小さな記事には、そんな内容が書かれていた。男は鳴りっぱなしのポットを放置。ペン立てに手を伸ばし、ぎゅうぎゅう詰めの真ん中にあるハサミを、スッと取り出した。すると一瞬、ハサミがダブると、半透明のハサミと、実体のハサミに分裂する。ペン立てに半透明のハサミが残り、男の手には、いつものハサミが握られている。男はハサミで、先程読んでいた小さな記事を切り取ると、ポケットの中にしまい込む。次にようやくポットに向かい、ポットの取手に手をかける。すると今度はポットが分裂。その場に半透明のポットが残り、男の手にはいつものポット。男は普通にポットを使い、お茶のパックを入れた湯呑みへ、普通にお湯を注いでいた。奇妙な、まるで手品のような光景である。ハサミもポットも男が持つと分裂し、半透明と実物に分かれている。しかし男はそんなことは気にもせず、診察室から待合室へ。窓のサッシを大きく開き、新たな空気を歓迎した。

病院の窓から見えるのは、少し小高い場所に建つ、真新しいマンションと市立栄中学校である。白衣の男は昨年より、中学校から聞こえて来る様々なイベントの音を、いつも窓辺で聞いていた。つい三年ほど前まではほぼ何もなかった空間に、三棟の新築マンションと一棟の校舎が生まれてから、学校から音が聞こえる日には、男はいつも窓辺に居る。ただし今は理由が違う。無意識にいつもと同じに『音』を聞こうとしている自分に気付くと、お茶を片手に苦笑する。
「それにしても遅い。吉田さん大丈夫かな?」
こんな夜中にも拘わらず、今は人を待っていた。

同時刻。森の病院より南に二百メートル。栄市の中でも一、二を争う大きさの市立栄町公園園にて。夜中に一人、老人がヨタヨタとランニングコースを歩いている。浴衣姿で点滴吊りを杖に持ち、左腕に点滴の針を刺したまま。
(先生、心配してるかな?)
点滴袋をぶら下げて、ゆらゆらと月夜を急いでいる。その向かう先、コース遠方対面より、チラチラと光が点灯する。
(!)
夜回り中の警官が、老人に向かって歩いて来る。老人は慌てて点滴吊りを持ち上げて、脇の植え込みに移動した。老人がその場で直立すると、警官は老人の目の前にやって来た。老人はすぐ横、コース沿いの植樹の中で立っている。だが警官は老人に一瞥もせず、何事も無く去っていく。老人は直立から胸をなでおろし、再びランニングコースに降り立った。しかし
(先生との約束の時間まで、あと十五分もあるだろか?)
公園は野球グラウンドを斜めに突っ切れば近道だが、地面が土で点滴釣りがままならない。老人は公園を出ると舗装道路に目がいった。目の前に広がる広い道。四本車線は夜中も明るく、車も通らず都合がいい。普段道路の真ん中を歩いたりしたら大橋先生に叱られる。けど
「まぁ、今日は特別だ」
と、車線の真ん中を歩きだす。アスファルトは土より平坦で、街灯が夜の街を照らしている。春の空気が心地よく、公園の植樹は花が咲き、緑があふれる季節である。
(なのに、どうしてこんなことになったのか)
世の中が正しく動いていたなら、今、自分はこんなことをする必要はないのだろうと、老人は今日の様な日が来る度にいつも苦々しく思っていた。それでも世界は少しずつ、良い方へ進んでいっているのだろう。けど
「全く気の毒に……」
と、老人は寂しそうに呟いた。その理由、ことの起こりは七日前。

栄市立栄中学校

五月九日 午後十四時四十七分
栄市内の栄町は、栄市を構成する町の中でも比較的大きな町である。以前栄市はそれほど大きくない『町』だった。都会に隣接するものの、川と海に挟まれて、交通手段が少ない上に度々洪水が起こると言う、隣の地域と比べても、住みやすい町とは言えずにいた。当時の栄町町長は、栄町の未来の為に一念発起。都市開発に着手する。川に高い堤防を、海側を埋め立てて土地を増やす。そこへ新線を開通させて、都心への利便性を向上させる。すると栄町は土地も人口も倍増し、晴れて『市』へと変貌する。その話を聞いた者たちは
「では栄市はさぞや最先端の街並みに変わったのだろう」
と考えた。だが実際のところはどうだろう? 現地住民に尋ねると皆、首を傾げて考える。確かに新天地は作られた。だが真新しい地に作られたのは、地平線が見える平原と、ひたすら真っすぐな道路のみ。新しい駅には何もなく、昔からある駅前の商店街は、寂れた感を滲み出す。恐らくあと十年くらいは、おしゃれな町には成り得なない。と、若者に人気が無いことが、逆に家族連れを呼び込んだ。栄市は都心に近いのに、犯罪率が低く家も安い。初めて家を購入するには良い場所だと、人口だけは上昇する。それらに伴い、子供の増加による問題について『公立学校不足』『教員不足』による学区域の再編など。大人の都合による転校で、保育園、小学校、中学校までの市立に通う学生の中には、学区域再編の『命令』により運命を狂わされた者がいる。

杉原一穂は中学三年に進級する際、市立栄中学校に転校した。栄中では生徒は何かの部に所属する、と言う謎校則が存在する。故に一穂は転校初日に吹奏楽部に入部した。それから早一ヶ月。
「おはようございます!杉原先輩!」
「おはようございます!」
「おはよ~」
一穂としては未だに『先輩』呼びが落ち着かない。入部したばかりなのに『先輩』と呼ばれ、放課後なのに『おはようござます』との理不尽かつ意味不明な挨拶に、当初は入部を躊躇した。なので一穂は入部前、円城寺仁の二歳下の妹である円城寺若菜に
「栄中の吹奏楽部の挨拶は、放課後なのに何で『おはよう』?」
と、その理由を聞いてみた。すると若菜は戸惑いつつも
「前の学校の伝統で、放課後でも部活動に早く来るから『おはよう』って言うんだそうです」
と、恐らく若菜も先輩から聞いた『そのまんま』で回答する。つまり若菜自身も、理由をよく判っていないのだと、一穂はなんとなく理解した。
(でもまあ、意味なんて分からなくても、挨拶くらいは出来る訳で…)
と、一穂は自分に言い聞かせ、晴れて入部届けを提出した。だがこの一ヶ月というものの、音楽室が近付くにつれて、徐々に大きくなる、多くなる。一、二年生の気合いの入ったお辞儀。加えて訳の分からない挨拶が。更に一穂は転校前の制服を現在も着用中である。嫌でも好奇の目に晒されて、その目立つこと目立つこと。一穂としては恥ずかしいことこの上無く、自然と早足が加速する。
(クソ! これもそれも全部あのアホが約束を破りやがったから。俺が転校することになったのも全部がアイツが悪いんだ!)
「失礼します!」
一穂は音楽室の前に立つと、ドアに八つ当たり? もしくは恥ずかしさをヤケクソで誤魔化すが如く、ドアを勢いよく開け、大声を張り上げて挨拶する。
「おはよう御座います!」
「おはよう御座います!」
一穂の挨拶に呼応して、その場の全員一斉に大声を張り上げ合唱する。放課後の音楽室は騒がしい。一年から三年合わせて総勢五十六名の面々が、各パートの場所作りのため、用具を持ち出し準備する。兵隊さながら音楽室内の机椅子を速攻で片付けて、腹筋背筋腕立て伏せ。運動部のごとく基礎運動を開始する。それでも音楽室に入りきれない面々は、廊下、楽器庫、踊り場などをそれぞれ当たり前の様に支配した。一穂は音楽室奥の楽器庫目掛けて突入する。するとさらに人が溢れ、混み具合はさながら朝の満員電車のようだった。その時、挨拶以外の声で一穂の耳に聴こえて来たのは
「円城寺が風邪ひいたぁ!?」
と驚愕する、顧問の高橋の声だった。それは高橋が新入部員の小林から
「今から十五分ほど前くらいに、円城寺先輩と会っていた」
と、報告された為である。

市立栄中学校体育館横プレハブ裏。竹刀や木刀を持つ数名が、地面に倒れた一人の生徒の周りを囲んで見下ろしている。
「駄目だ、全然足りねぇ」
と、一人が鞄の中身をばら撒いて、不機嫌そうに報告した。倒れた生徒は声を恐れて怯えるように上を見る。瞬間、倒れた生徒の顔面横に、どんっ! と竹刀を突き立てた。
「すみません、すみません! 親が財布を隠してて、ごめんなさい!」
倒れた生徒は恐怖のあまり、泣きながら必死で謝った。空の鞄を持った生徒は鞄を遠くへ放り出す。
「〇ね!」
倒れていた生徒は鞄と中身をかき集めると、泣きながらその場を去っていく。
「チッ、話になんねぇ! 何でいちいち絶対チクらない奴を探さなきゃいけねぇんだよ」
取り囲んでいた数人の内、一人の生徒が不服そうに訴える。
「でないと葛岡がうるさいだろ」
「分かってるっつーの、んなこと!」
鞄を放り投げた生徒が諦めたように返事すると、怒りの感情を向けられた。一人はプレハブ壁を足蹴りする。
「前は睨むだけで金出してたのになぁ。あれ以来ずっとコレだ」
「ったく、五十嵐も葛岡も、何でいつまでも放って置くんだか」
「知らねーよ、鬱陶しい」
口々に文句を言う数名も市立栄中の学生で、地面に竹刀を突き立てた生徒は、更に地中へ竹刀を更に押し込めた。音を立てて割れる竹刀。
「ちっ…それもこれも、あの下らない噂せいだ!」

栄中の校舎裏。制服も真新しい一年生が、先輩らしき生徒に対し、深々と頭を下げている。
「有難うございました! 円城寺先輩」
後輩の明るく元気な声が、校舎とマンションに木霊する。ボサボサ頭の三年は、後輩のお辞儀にニッコリすると
「見た所傷も無いし」
と抱えるケースを目で指した。
「あ!」
仁の指摘に小林は慌てて、硬質ケースをパチンと開く。と、中から金色に輝いたトランペットが現れた。

市立栄中学校は今年で創立二年目の、出来たばかりの中学だ。新しいといえば聞こえは良い。が、栄市は開発やインフラに資金を回し、学校などは校舎を間に合わせるだけで精一杯。設備も資材も何も無く、理科室などは今年出来たばかりである。部活動費に至っては、予算を回せる筈も無く、特に吹奏楽部のような父兄の寄付まで使うとなると、打楽器やチューバなどの大型楽器以外では、前提条件として、生徒自身が楽器を持参することとなっていた。そのため入部希望者は、親に泣きつく、または自身の貯金を投入するなど。知恵を労力、資材を絞り尽くして入手する。その楽器が紛失したと、仁は昼休みに小林から相談されたのだ。部員にとって楽器は文字通りの『宝物』である。仁は午後の授業をすっぽかし、先ほど宝を見つけて来た。小林は部品を取り出して、隅々まで確認すると、再びほっとした顔になる。仁は小林の様子から、楽器が大丈夫であると察すると
「じゃ」
とすぐに去ろうとする。が、小林は慌てて仁を引き留める。
「あ、待ってください」
振り向く仁。小林は、言い辛そうな顔をする。
「やっぱり高橋先生には、言っちゃ駄目ですか?」
小林の言いたいことは、仁も十分解っていた。
「先に先生に言わず、先輩に探して貰っておいて、こんなことを言うのは変ですけど…」
だが仁は
「何も無ければそれでいい」
と、小林の意見を受け流す。小林は自分でも先に高橋に相談しなかった理由を解っている。
(…すみません)
小林は仁には見えないことを分かっていても、背中に向けてお辞儀をした。その時、聞こえ始めた楽器の音に、忘れていたことを思い出す。
「先輩! そう言えば高橋先生が、先輩に話があるって…」
小林の声が届かないのか、仁は更に遠ざかる。だから小林は、既に遠い仁まで、声が届くよう叫んでみた。
「先輩! 音楽室に行かないんですか!」
仁は小林の声に振り向くと、小林に分かるよう大袈裟なジェスチャーをしてみせた。

一穂は高橋と小林の話を聞きながら、ゆっくりケースを取り出した。
「…で?」
高橋の質問に小林は
「(こんな感じでゴホゴホって)ってしてました」
と仁のジェスチャーを真似ていた。すると楽器庫に居た三年男子が、その場で全員爆笑する。
「嘘つけ、今朝は全然平気だっただろうが。ワザとらしいにもほどがある」
口々に仁の対応にツッコむと、鞄を棚に放り込み、替わりにケースを抱えこむ。
「そういやあいつ、インフルでも学校に来た事あったよなぁ?」
「倒れて保健室で熱40℃出てるって発覚した時だろ? ホント、人の迷惑顧みず」
金管男子は、本人が居ないことを良いことに、主役の黒歴史を暴露する。しかし小林と高橋は、真面目な顔でお互いの出方を伺った。
「で、別れたのが今から十分前か」
「はい…」
切り出したのは高橋だった。小林の話しの内容からして、仁は学校内には居ないだろうと、その場の誰もが考えた。しかし
(アレはいつも忙しい。確実な確証がない限り、ほぼ絶対に捉まらない。けど)
杉原一穂は念のため、楽器庫奥の窓際の、校庭が見える位置まで移動した。

その頃、栄中校舎二階にて、ガタイの良い三年生が、放課後居残る生徒に対し、仁の行方を聞いている。
「円城寺? 確か午後から居なかったかなぁ」
栄中校舎の二階には、三年教室が並んでいる。ガタイの良い生徒は校舎内の教室、設備を一階から四階まで全て回った。が、仁の居場所に関する情報を、何一つ得られ無かった。
(だとすると、残りは運動部か?)
仁が最も行かないはずの場所を探してみるかと考える。すると廊下の支柱に隠れていた、小さな生徒が現れた。

「どうだ、見つかったか?」
隠れていた小さな生徒にガタイの大きな三年生は命令口調で質問した。しかし隠れていた生徒はブカブカの制服を邪魔くさそうに振り払い

「もういいじゃん。きっと見つかって帰ったんだよ」

と不機嫌な顔で言い放つ。
するとガタイの大きな生徒は拳を振り上げ、ガツン!と一発
「痛っ!」
低い頭上にお見舞いする。
「何すんだよ!」

「見つかって無いなら見つかって無いとちゃんと言え。それと憶測で物事を判断するな!」
と、ガタイの大きな三年は上から目線で叱り付ける。(…なんで円城寺のことなんか)小さな生徒は不満があるが、大きな生徒が自分の正義を信じているのも知っている。
「何か言ったか?」

「別に」
抱える不満を伝えずに睨む三年に逆らわず今は黙って付いて行く。
======愕然としていた高橋は、気を取り直すと
「妹、円城寺妹!」
と仁の妹を指名した。
「はいっ!」
突然高橋に指名され、一年の若菜は驚いた。パートの打楽器の練習場は楽器庫で
「円城寺から何かその…話しは聞いていないかな?」

「…吹奏楽部の、ですか?」

「ああ、知らなければいいんだが。ほらなんと言うか、円城寺は元吹奏楽部部員だし、一応初代部長だし…」
若菜は高橋が聞きたい事の、察しは大方付いている。しかしそれは兄が直接話すべきだと思っていて、若菜からは話したくないことだった。
「例えば今は円城寺は特例だが、来月何処かの部に所属しないとダメだと言われたら、例えば希望とか戻りたいとか」
しかし真剣な高橋に、若菜はどうするべきか困惑し、後ろ手に持ったスティックを指でクルクル回している。若菜の横に居る小林も、その場で様子を見守った。その時(いる!)窓辺の一穂の視界に、ボサボサ頭が飛び込んだ。今までどんなに捕まえようとしても捕まえられず、今も期待せずに探してみた。その仁がブラブラと校庭を歩いている。(これは偶然か幸運か?)一穂はチャンスだと考えた。
「先生!」
高橋は呼ばれてハッとした。すると制服の違う転校生が
「円城寺ならそこ、歩いてますよ」
と窓の下を指さした。
「ほら、あそこ」

「え!」
二、三年と高橋は一斉に校庭を確認すると、体育館付近をふらふらと歩く、ボサボサ頭の仁が居た。
「あ、いる!」

「仁じゃん!」
驚く声に引き寄せられて、庫内にいたほとんどの生徒が窓の外に注目する。
「おーい、仁ー!」

「円城寺センパーイ!」
口々に四階から仁を呼ぶ。届いているのか居ないのか?一向に気が付く様子が無い。その隙に一穂が楽器庫内から出ようとする。若菜が一穂に気付くと、一穂はニカッと笑いかけ
「俺、呼んできます!」
と高橋に言うと、音楽室から飛び出した。一穂の声に高橋は
「杉原いい、行くな!」
と止めるがもう遅い。二、三年は仁を呼ぶが、仁は体育館内に消えて行く。開けっ放しのドアからは、ロングトーンが聞こえて来る。窓を覗いていた部員たちも所定の場所へ移動した。(…仕方ない)高橋は一穂の帰りを待つことにする。若菜も小林も高橋にお辞儀し、所定の場所へ移動する。そんな中、最後まで窓に張り付いていた三年対馬は
「アイツ円城寺と違うクラスなのに、よく円城寺のことが分かったな」
と、一人言を呟いた。
======転校生の杉原一穂は、円城寺仁に対して個人的に用がある。======
それは半年前、母親からの突然の告白から始まった。
「再婚!?」
(ひょっとしてあのオッサンか?)一穂は母親からその言葉を聞くまでは、母親は父親一筋だと思っていた。故に新しい父親が出来るとか、自分に兄妹が出来るとか、そんなこと考えもしなかった。(だからあの時、お袋の告白に直ぐには喜んでやれなかった)そんな一穂に対して母親は
「一度全員で会って見て…それからみんなで考えようって」
まるで悪いことをしたような、申し訳無さそうな顔をした。それから半年(今までに六回だ、六回! 円城寺家と杉原家の顔合わせの食事会を、あのバカは六回全部すっぽかしやがった!)生の仁を見たのは転校後。その後もすれ違う一方で、話す機会が得られなかった。
一穂は外履きに履き替える。外階段から校庭を見渡す仁が見当たらない学校から出たのか?正門は校庭を挟んだ校舎の反対側にある。
校庭内はサッカー部と野球部が占めるため、真ん中は突っ切れ無い。二階の外階段の左右よりプレハブ側を選択する。
===========
体育館横のプレハブには、体育系部の部室がまとめて収められている。柔道部兼剣道部の部室もその中の一室で校庭には直ぐに出られるが、体育館に行く場合一旦外履きに履き替えてからもう一度上履きを履くと言う、面倒な作業が必要だった。
「いちいち面倒くせーな」

「早くしないと五十嵐がうるせーぞ」
着替えを終えた剣道部員

収穫が無く機嫌が悪い

部室から出るすれ違い明らかに制服の違う生徒を発見する

「なんだあいつ?」

「転校生だよ、例の」

三崎と関谷

「ああ、葛岡の事無視したって奴?」

「転校生にまで舐められてんのかよ」

「いや、あいつも吹奏楽部らしいぜ。葛岡は放っとけって言ってるし」

「吹奏楽部、吹奏楽部。誰が入れ知恵したかは知らんけど、吹奏楽部様さまだな」

安田が皮肉を言う

会話が聞こえた後から出て来た真辺がふふんと鼻を鳴らす

「おい!」

一穂がプレハブに沿って走っていると後ろから声を掛けられる振り向くと竹刀と木刀を持つ集団が居る。!一穂は吹奏楽部に入部の際、注意として
「剣道部とは絶対に関わらない」
よう告げられた。

「おい、お前だよ。転校生」
(やばい、見つかった?)
慌てる一穂

「吹奏楽部に入ったんだって? じゃあ金回りはいいんだよな」
と、連中の後に仁を発見。
(あ!)体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下から再び校舎に入って行く。(不味い!)消える人影、あいつらにかまっている余裕は無い
「ワリぃ!」

全力で走って突っ切った。!唖然とする真辺ら

「テメぇ! ふざけんな、止まれってんだよクソが!」

「ごめん、ウチ全然貧乏!」

爆笑される真辺ハハ、超速だったな
お前もスルーされてんじゃん

関谷に揶揄われる赤っ恥をかく真辺
一穂を追いかけようとする

「おい、何してる」

五十嵐!(見られた!)

======

======
事件
======
去年の八月二日。市立栄中学校の校舎裏の裏門付近にて、同中学在中の生徒十数名と、他校生徒数名ほか多数の未成年者による障害事件が発生した。通報を受け現場に到着した警察官の証言によると、現場は校内外に二十四名の負傷者が倒れており、他には軽車両、楽器及び凶器と見られる竹刀、木刀が散らばっていたとのこと。その中で当時栄中二年の円城寺仁が、木刀を所持し唯一人その場で立っていた。と言うものである。後日、現場検証と事情聴取により、加害者である同栄中生徒ほか他校生徒は各自治体やそれぞれ管轄の教育委員会より処分が決定され、円城寺仁に関しては正当防衛を認められるが一か月の謹慎処分を申し渡された。だが実際は入院期間を謹慎期間に当てたとして、事実上処分無しであったと見られている。
他校生徒は元より、栄中生徒で加害者と断定された元剣道部数名と他運動部らは、監護処置となった者や自主的に転校をするなど、生徒自身の口から事実を語られる事が無かったゆえ、あくまで
「警察官が見た現場の状況」
だけが独り歩きしてしまった結果であるが…。
以後栄中は警察からの監視強化区域に指定され、特に現場に散乱した壊れた楽器類の所持者たち。つまり栄中吹奏楽部員は、特定の生徒の恨みから後日二次被害を受ける可能性があるため、教員や教育委員会に直訴可能となった旨が同中全生徒に伝えられた。つまり吹奏楽部員というだけで、現剣道部員ほか、彼らに良からぬ考えを持つほとんどの者が安易に手を出せない状態になったのだ。
============
高橋は一穂の帰りを待つ間、音にまみれて考える。昨年、仁の入院する病院に見舞いに行った時のこと。
「このまま吹奏楽部に残れば、再び同じ事が起きる、と?」

「その可能性が高いです」
仁は六人部屋の仕切りのカーテンを開けたまま、高橋に退部を願い出る。
「もう二度と、吹奏楽部に戻る気はないのか?」

「はい」
謹慎期間を終了後、吹奏楽部部長円城寺仁は退部届を提出した。
あれから約一年。
高橋は今までに教育委員会や校長やPTA達と、仁のことを何度も何度も話して来た。その甲斐あって先月になって学校側は仁の復帰を承認する。しかし仁から得られた返事はあの日と全く同じである。恐らく今回の返事も同じだろうと高橋は十分承知している。それでも今回は本当に最後の最後として(だからこそ音楽室で、皆の前で、きちんと話しをしたかった)金管用の置き場には、仁が退部する際学校への寄付として置いて行ったトランペットが今でも隅に置かれている。誰も使っていないのに、開くとピカピカに光っていた。

=========
その時、仁は小山内敦史を探していた。楽器を探してくれるよう頼んだ後、見つかったことを伝えるため。体育館内を探したのちに校舎内に戻ってみる。二階で各教室を覗き中、妙な気配を察知する。(一つは下、一つは外)
===============
杉原一穂は二階の下駄箱から廊下を左右確認する。と(いた!)と目標人物を発見する。
「お~い、円城寺~! 高橋せんせ~が呼んでるぞ~」
速攻かつ大声で、目的の相手を呼び止めた。仁はその声に気が付いたのか、一時行動がストップする。と、一穂が居る逆方向へ、スタスタと早足で去って行く。(は?)空白の一秒。次に一穂の頭に血が上る。
「なんだそのリアクションはぁ!」
廊下は走っちゃいけません。なんてことは小学校の頃から知っている。だが一穂は全力駆け足で仁の後ろに追いつくと、学ランを後ろから引っ張ろうとした
「てめえっ!いいかげんにさらせ!」
が、寸前で交わされて、勢い余ってすっ転ぶ。仁は訳が分からず唖然とすると、一穂は直ぐに起き上がり、仁の胸倉を鷲掴む。
「こっちがずっと声掛けてんのに何で無視すんだよこの野郎! 何度も何度も何度も呼んでんのに、散々無視しやがって!」
一穂は真っ赤な顔をして、一気に今まで言いたかったことを吐き出した。すると
「何が?」
訳の分からない仁としては、そう返事するより他に無い。だが、仁にとって思い当たることに入らない事に一穂の怒りが噴射する
「ねぼけんな!食事会の事だよ、食事会! 去年から一体何度呼んだと思ってやがる。半年の間に六回だぞ、六回! それを全部すっぽかしやがって」

仁は一穂の話の内容に対し、思い出したように(あ~…)と言う顔をした。能天気なのか馬鹿なのか? (こいつ…本当に何も判っていやがらない)
「とにかく、お前一人が来ないせいで若菜ちゃんや親父さんがどんだけ気不味い思いをしているか? ウチのお袋がどんだけ心配してると思ってやがんだ。この馬鹿タレが!」
そこまで言うと何かを考えているような顔になる。(ようやく少しは分かったか?)
「で、なんで来ないんだよ?」
平然と
「忙しい」
怒りバロメーターが一気に上がるがそこは頑張って抑える
「コッチは事前に予約してるだろ、しかも六か月前から毎月」

「…急用が多い」

更にメーターの上限を追加して、怒りをギリギリ我慢する

「急用ってどんな急用だよ? 部活や友達付き合いがそんなに大事か? 仮にも一生に関わるかも知れない人間と、一回面会してみようって言う、お前の人生にも関わる非常に大事な企画だぞ」
自分でも顔が引き攣っているのを一穂は十分自覚した。
「俺の…何で?」

「はい?」
一穂は耳を疑った。
「何が俺の人生に関わることなんだ?」
仁の返事を聞いた際、常識が違う人が居る。と一穂の感想がそれだった。
「お前馬鹿か? 自分の母親が新しい人になるかも知れないってのに、どうして一生の問題にならねーんだよ!」
今度は一穂が困惑し、仁の問いを追求する。すると仁は
「親が誰になるかは重要でも、自分の一生が親で決まる訳じゃない。親も親である前に人間だし、上手くやるならそれでいい」
と、他人事のように達観した。一穂は一瞬
「成る程。確かにそーかも知れねーが」
と仁の意見に同意する。が、直ぐにハッとして、仁の意見を振り払う。
「だからそうじゃ無くて! 家族ってのは個人であって個人じゃ無くて、親同士が上手くやればいいで済む問題じゃ無ねーの。お前が反対してるなら、お袋は止めるつもりなんだよ」

「何を?」

「再婚だよ、再婚!」

と、そこへ

「円城寺か!」
と仁を呼ぶ声がする。声のした方へ反応すると
仁が探す小山内敦史と、もう一人がそこにいた。

=====
柔道部兼剣道部
=============
敦史は仁を柔道部兼剣道部の部室内に呼び寄せると、床に正座で謝った。
「すまん、この通りだ!」
敦史は床におでこを叩き付け、気合入りで土下座する。横の小さな一年は、敦史に頭を掴まれて無理やり頭を下げさせられた。
「え?」
仁と一穂が驚いていると、敦史は頭を下げたまま犯人の正体を告白する。
「楽器を隠したのはこいつ。俺の弟の稔だった!」
声を張り上げ謝る敦史
「ほら、お前もちゃんと謝れ!」

「……」
だが弟の、稔の顔は明らかに不満を訴える。困惑する仁と一穂に敦史は更に説明する。
「楽器紛失の件で一年に聞き込みをしたんだが、その時稔の素行の悪さも耳にして、稔にその辺のことを聞いてみたら…ホント申し訳ない。情けない!」
敦史はそこまで言うと言葉を詰まらせる。(楽器?紛失?)一穂は訳がわからないが仁は事情を理解する。
========

昨年に起きた事件以降、剣道部は専用部室を持たない事で部として存続が許された。
事件当時の剣道部員で今でも部に残っているのは
「参加しなかった五十嵐」

「参加した葛岡」
の2人のみ。この二人以外は、事件後に入部した部員である。

「要は柔道部なら剣道部を抑えられる。剣道部は柔道部以下って事だろうが!」

怒る五十嵐に、葛岡は

「それで存続出来るなら言わせて置け。それより部員補充が先決だ」
と、部員を何処からか補充した。

========
荒れる五十嵐
========
放課後の栄中体育館内ではバスケ部、卓球部、バレー部が各所で練習を行う中その片隅剣道部の五十嵐は、完全装備の真辺に対し、胴着のみで相手する。

「少しは反撃しろよ、一応剣道部員だろ」

 

「くそ!」

面を上から下に、思い切り振り抜いた同時に激しい音を立てて折れる竹刀。
防具で守られているとはいえ、振り抜いた衝撃は真辺の身体に伝わった。

「真辺!」
叫んだのは関谷と三崎である。
関谷も三崎も既に五十嵐に倒された。
真辺は気を失ったのか、その場に倒れて動かない。五十嵐は動けない真辺を確認すると、舌打ちして構えを解く。
そこへ安田が五十嵐目掛けて突進上へ大きく振りかぶる五十嵐は当然安田の気配に気付き折れた竹刀で空きだらけの胴を突く

「ぐっ!!」

飛ばされる安田

「てめー何しやがる!」

「折れた竹刀で普通突くか? 腕や首に竹刀が突き刺さったらどうすんだよ!」

なら木刀にするか?
半年在籍してそのザマか
うるせえ
先に入部してたからって、同学年に先輩面するんじゃねーよ。

お前と違って俺は剣道なんてそんなのどーでもいいんだよ

===
葛岡登場
====
「五十嵐、またやってんのか?」
遅れて来た道着の生徒挨拶無しで質問する
「いや、今日は真辺たちの方から誘った」

「?」

「久しぶりにカモ突いたんだけど、思ったより収穫無くて」
睨む葛岡
(おい!言うなって)

「あ…ワリィワリィ、今月金欠でさ〜。ちゃんと絶対チクらない奴選んだし。けどそいつクソ貧乏でさ。オマケに転校生にまで舐められるし」

「転校生?」

「真辺が声掛けてんのに『ワリィ』って一言でスルーしやがった」

「へ〜…」

「で、葛岡の方こそどうだったんだ?」

「今月一杯で廃部、だそうだ」

=======
荒れる五十嵐
========
どうでもいい?そうだな。確かに俺もお前がどう思っているかなんてどうでもいい。だがお前らがここにしか居られないって言うなら、ルールくらい守るんだな
俺はちゃんと守ってるぜ、この学校のルールを。何かしらの部活動に所属する事。それがルールだろ。
以前の剣道部がいくら強かろうが、学校としての実績はもう何も無い。お前が初心者の俺らに勝ったところで、それが何だっつーんだよ?
肝心の奴に腰引けてるような奴から何を教わったって強くなれるはずねーとしか思えない。本気でやる気になんかなれねーよ

なら月末まで待たずにとっとと辞めろ。他に引き取ってくれる部があるならな。
お前こそそんなに円城寺が怖いなら吹奏楽部にでも入れて貰うんだな。浅見や高木みたいに尻尾でもなんでも振ってみろ。
貴様…
殴り合いになりそうになる所を葛岡が割って入る
「おい、いい加減にしろ」

「止めんじゃねぇ!」
葛岡の静止を五十嵐
「邪魔すんな!葛岡」

「そんなに気に入らなければ、お前こそ今すぐ剣道部を辞めろ」
五十嵐に向かって啖呵を切る葛岡。
「てめえこそ智のせいで廃部が決まったようなもんなのに、部員に舐められた上、先公にまで媚び売りやがって! こんなクソ部でもまだ部長でいたいのかよ!」

「それがどうした」

「……お前、本当に最悪だな」

「そりゃどうも」

五十嵐は葛岡を突き飛ばすと剣道部使用エリアの隅に腰を下ろした
残りはミーティングにするお前ら先行け俺は五十嵐と話しがある
=======
弟のためだったのか
=======
校舎二階の廊下にて、敦史は仁に遭遇後、柔道部で話をしたいと願た、しかし仁は拒否をする。一穂を無視する敦史に対し、一穂は自分が先に仁と話しがをして居て、まだ終わっていない旨を伝えるが、敦史は一穂を無限にした。
「だから俺の方が先に話していただろうが!」
と怒る一穂に、敦史は仁を凝視する。ついに一穂は敦士の胸ぐらを掴んで自分に振り向かせようとした。が、一穂の両手は空振りする。
「え?」
目の前から敦史の姿が消えている。一穂はどう言う事かと左右を見るが、敦史が視界に入らない。代わりに仁の、しまった、と言う顔と、下から妙な声が聞こえて来た。見ると敦史が腹を押さえて、丸くなって呻いている。
どうやら一穂の動きを察知した小山内は、一穂の腕を掴もうとした。だが仁も二人の挙動に気が付くと、敦史の腹に一発お見舞いしたらしい。
「…すまん」
と詫びる仁に対し
「そう、か…なら来てくれるか…」
と敦史は無理を要求する。
仁は剣道部員が柔道部部室内にいないなら移動する旨を受諾した。一穂は敦史に、先に仁と話しをしていた旨、同行を容認すれば、話しの邪魔をしないと言うと、敦史は渋々一穂の同行を受諾する。(つまり円城寺は無くなった楽器を探してて、高橋との約束をすっぽかしたのか)一穂は今日の仁の行動について、何となく事情を理解する。にしても、入部時の注意と言い、円城寺の条件といい(確かに柄が良いとは言えないが、
敦史の心情を無碍にして、楽器を隠した本人は口を尖らせ仁の事を睨んでいる。一同黙ったままの状態に、一穂が横から口を出す。
「どうしてそんな事を?」

「吹奏楽の奴らみんな生意気だからだよ! なよなよで弱いくせ楽器見せびらかして自慢してさ。自分が強く無いのにケーサツや先生が後ろについてるからって偉そうに威張ってるじゃん」
怒りと侮蔑と偏見を片手に、稔は一穂に八つ当たる。すると稔の頭上にゴンッ! と一発。
「生意気はで偉そうなのはお前だ!」
兄の怒りが落とされた。
「どうせ吹奏楽部がちやほやされてるのを見て、妬んで嫌がらせしてやろうって思ったんだろうが」
と言う敦史の決めつけに、弟の稔はムッとする。そんな稔へ仁から
「小林がそうなのか?」
と素朴な質問をした。稔は変わらず不機嫌なまま

「小林もそうだけど、吹奏楽部全員だよ」
とぶっきらぼうに返事する。
「そうか…」
心なしか、仁が沈んだように見えた。一穂は(小林って高橋に報告してた一年か?じゃあ楽器紛失については高橋には隠してたのか…)
「なら今回のことは、自分一人でやったのか?」

「!」
仁の聞く内容に、兄弟同時にピクッと反応する。
===========
納得のいかない稔===========(なんだ?)緊張する三人に、一穂は困惑する答えない稔兄は鬼の顔で催促する。
「どうなんだ?」
小山内稔は顔を逸らしてひとりだよと小さく答えた。兄は更に追及する。本当か?稔は口籠ると
「だから一人でやったって言ってるじゃん。何だよ、ちょっと悪戯しただけで…」
そう答えて目を逸らす。しかし誤魔化しは兄には通じない。
「稔。お前、剣道部の奴らと付き合ってるのか?」
!震える手(剣道部ってアイツらか?)一穂は自分の記憶を手繰り寄せる。
剣道部ってのはそこまでヤバい奴らなのか?)
稔は兄の質問を出来るだけ平静にじっと聞き、下を向き口を真一文字に閉じている。返事をしない弟の真の答えを、兄は経験上で理解した。ひざ上に置いた鉄拳が震えているのが見て分かる。だが今度は振り下ろさずに、仁に変わり裁決する。
「アイツらは自分のために悪いことを平気でやる連中だ。今後アイツらと付き合うことは俺が許さん」

「何だよそれ、悪戯で友達の荷物隠すなんて、良くあることじゃん。それに何で兄ちゃんが俺の友達勝手に決めるんだよ?」
稔はそう反論した。だが敦史は
「本当に悪戯か? 本当に友達へちょっかい出したいだけでやったのか?」
と稔の本心を確認する。
「違うよな。お前には明らかに吹奏楽部への悪意があった。だから見つからないままで帰ろうとした。見つからなくてもいいと思っていた。あんな奴らはどうでもいい。ザマあ見ろ、か? それが友達に対してする事か」
言い返せない弟、稔。溜息を吐く兄、敦史。
「今日は円城寺が楽器を見つけてくれたお陰でお咎め無しで済むそうだ。だがお前は警察に捕まってもおかしくないことをした」
そう言い切る敦史の勢いに
「いや、まだそれは」
と一穂は稔をフォローする。だが敦史は
「したんだ!」
と一穂を一喝する。
だって…吹奏楽部が学校内で偉そうなのは、全部『噂』のせいなんだろ?円城寺と同じ吹奏楽部だってだけで、皆んな威張ってるなんてズルいじゃんか。
ブラバンの奴らが威張って見えるのは、お前と剣道部の連中だけだ。
皆んなズルい何で俺だけ怒られるんだよブラバンなんて、嘘の噂に乗っかって調子こいてる奴らじゃん。優等生だって隠れて悪いことしてるのにいい子ぶってる卑怯者じゃん
先生だってそうだ。成績がいい子や自分に都合の良い子を贔屓して、悪いことしても庇ってて。皆んな隠れて悪い事やってるじゃん。いい子だって先生だって見つからないようにしてるだけで、隠れて悪いことやってるじゃんか!
違う!
不良だろうが優等生だろうが、やっちゃいけない事はやるなって言ってるんだ

剣道部の奴らが何を言ったか知らんがお前が俺に幻滅しているのは分かってる俺の事を見下すなり馬鹿にするなら勝手にしろ。

だがお前は自分のした事にまだ全ての責任はとれない何かあればそれは全て俺たち小山内家の責任になる
つまり監督責任だ
自分で自分の責任を全て負えるようになるまでは俺の言う事を聞け!

「…」

返事をせず出ていく稔
=============

 

「弟がいたのか」

「はは、まーな、似てねぇんだけどな」

照れ笑いする小山内
杉原だっけ?弟のせいで悪かったな
い、いや、俺は別に

稔は昔俺の後をついて回るような奴だった。でも最近俺に反抗するようになって、今では何かと喧嘩ばかりだ。
稔は不良に憧れている。不良はカッコよく、悪いことをしていも本当はいい奴なんだと勘違いしている。だが漫画に出て来るような、弱きを助け強きを挫く不良なんて、少なくとも俺は知らない。
=========廃部決定か
まあ当然と言えば当然かな今までよく持った方だ
お前の無駄な野望も終わったな
野望?
親が高校に行かずに家に金持って来いって言ってんのに、奨学金狙ってたんだろ?ヒデー奴だよな
こんなクズ部だろうが部長って肩書きは有難かったんだけどな

笑って答える葛岡のポケットには、単語帳が収まって居た。
=====
お前もこんな部とっとと辞めちまって別の部の幽霊やってる方がマシだろうに
まだ智に勝ちたいって考えてるのか?
智より強い奴なんてごまんといる強い奴に勝ちたいだけなら、強い奴の居る道場に入門するか高校は強豪校に入ればいい。それだけだろうが(剣道部が無くなるならもうどうでもいいのか?)実は以前、円城寺と試合をしたことがある。
!五十嵐の回想========
昔、五十嵐の父が他者と噂話しをしているのを、五十嵐は聞いた。何処の大会にも出場しない、何処にも姿を表さないのに、めっぽう強い奴がいる。その道場は私的なもので、そこに呼ばれる面々は、いずれも知る人ぞ知る輩であり、その中に子供も居たとのこと。
五十嵐はその時、そいつと試合をしたいと父に願い出た。が父自体も噂であり呼ばれた事もないため、無理だと言われて諦めた。

その後、中学剣道部に入部する。
先代部長の不破は非常に強く、五十嵐も葛岡も過去1度も負けた姿を見た事が無い悪癖卑怯な手を使う卑怯な手を使わなくても十分強いのにわざと使う(コイツなのか?いやどうでもいい)五十嵐はいつか必ずこいつを正当手段で倒す事を心に決めていた
不破に五十嵐は一度だけお前、めっちゃ強い奴の噂を聞いたことがあるか?と聞かれたことがある。しかしその時は何も思い出せなかった。(違うのか)
昨年、不破が非公式試合で大けがを負い、その後引退したと聞く。そして事件発生。円城寺と言う同学年の噂を聞く、
============
真相は誰も知らないと言う。
その時、五十嵐は父親が話していた噂話しを思い出し、事の真相を暴くべく円城寺に試合を申し込む。
============…
だが一方的に俺が勝ったことにされた
全く相手にされなかった
円城寺と言い不破と言い
ホント、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって

「…」
(もしかすると)
===========
小山内稔
=====
なんで俺だけいつもいつも…
兄ちゃんは凄いんだと思っていた。小学校では敵なしで、小山内って名前を出すだけで皆んなが一斉に怖がった。きっと中学でもヒーローで、俺は自慢できると思ってた。しかしその兄ちゃんが怪我で入院した。兄ちゃんは俺に理由を話さない、親は兄ちゃんを信用した。兄ちゃんが俺に理由を話せないのは
「誰かに負けたせいだ」
と考えた。
中学に入学後、柔道部は円城寺に負けたと聞いた。
小山内なんて誰も知らなかった。円城寺を見に行くが貧弱で兄ちゃんより強そうに見えない
兄ちゃんに学校の噂について聞いてみた兄ちゃんは噂が正しいと言った。
でも俺にはそう思えない、だから本当の事が知りたかった。

「じゃあ、円城寺が強いっていうのは」

「嘘に決まってんだろ。本当に強いなら戦って勝てばいい。弱いのがバレるから俺たちと戦わない。戦わなくていいような噂を流したんだよ」

「ズルいそんなの! 何でそんな嘘つくんですか?」

「最悪だろ?吹奏楽部の連中だよ。アイツら弱っちいくせ頭がいいから、先公とケーサツを丸め込んで、自分たちに都合の良い噂を流しやがった」

「どうやって?」

「どうやったのか、俺たちもその秘密を知りたいんだよ」
先輩たちは吹奏楽部に手を出せない理由がある。その理由さえなくなれば小山内は円城寺に勝てると言った。先輩達も吹奏楽部を嫌っている。

「先輩達の仲間に入れて下さい!」

「じゃあ…取り敢えず自分のクラス締めろ。それからだな」

=====
よう。

締め終わったか?
あ…あと一人です。
そうか、はやくしろよ。
は、はい!
なんか様子変だったな金は?まだ早いだろ。
=====
「恥かきついでに聞いてくれ。実は、今日楽器の件で一年に聞き込みした時に分かったんだが、どうも稔があいつらと接触しているらしい。アイツらの指示で同じクラスの連中に迷惑を掛けて、その延長で楽器を隠したようだ」

……
事件の時誤解の無いよう家族には話した
だが、俺の説明が下手なのか

稔には、俺の話よりあいつらの話の方が信用できるものだったらしい
俺に幻滅するのはいいが、あいつらとつるむのはな…今日の悪戯も、稔は吹奏楽部が生意気だからと言い張ったが、次はどうか分からない

円城寺、剣道部が今月で廃部になるぞ

「……」

今まで廃部にならない方がおかしい部だったが
部員をバラした所で、集会所が変わるだけなのにな、逆に監視しにくくなる
あの時みたいな事はもう2度とやらないとは思うが

小山内敦史の話しの途中で

仁が静かに体制を整える
仁の異変に気がつく敦史
遅れて一穂も気が付いた
話しの方向を変えるため小山内は仁に突っ込んだ

「にしても円城寺。何でお前が吹奏楽部なんだ? 格闘系とは言わなくても普通体育会系だろ」

「スポーツは苦手だし、吹奏楽は流れで」

「流れって…いや、前の学校のブラバンは少なくとも流れで入るような部じゃねーぞ。ガチ全国区で、上下関係厳しいし入部テストがある上、成績落ちると即退部だっただろ」

「そうか?」
キョトンとする仁
敦史は話しを続けながら部室のドア方向へ体を向ける。

「なあ円城寺。お前もう、吹奏楽部には戻る気はないのか?」

との小山内の問いかけに、仁は迷いの無い表情でにっこりと笑う
と、仁の意思を改めて確認した小山内、
そうか、なら
=====
===========
柔道部のドアが外側から開かれた

!!
中のメンツを見て驚く剣道部員
「え?」

「円城寺!?」

「てめえ、何でここに居る」

剣道部全員がガンを飛ばす。先に居るのは円城寺。

「俺が呼んだ」
と、凄みのある小山内が、堂々と答える

しばらく睨み合いをすると

「そうかい、そりゃご苦労」
と、剣道部の一人が膠着を解いた
てか小山内、お前何やってんだ?まさか土下座でもしてたのか?
馬鹿笑いする剣道部
そうだ、円城寺に柔道部に入って貰えば、お前らを大人しく出来ると思ってな
なんだと!
まあ、まて
つまり柔道部は結局俺らを監視できなかった。それを認めんだよな、小山内
そうだ。
まあ、そのおかげで俺らもこれから別の部に飛ばされるワケだ。お前らは今後部室を独り占め出来る訳だし少なくとも俺たち全員柔道部員にはならないから安心しろそれとも吹奏楽部に入れてくれんのか?
やった!円城寺は居ないし、女可愛い子ばっかだし俺、奥田取った!あ、じゃあ俺恵がいい恵いいよな、大人っぽいし。写真撮って投稿するかそういやこの前、中学生の投稿写真乗ってたな~それホントに中学生かよ小学生だったりしてな!

ヤバい、聞いていて吐き気がする。(こんな奴らなのか)

「おい、転校生」
と、矛先が変わる
今後楽器教えてくれよなんなら貸してくれるだけもいいんだぜまあ練習し過ぎで壊れちゃったりしても悪気は無いから、許してね

感情を抑える一穂

「そういやお前、さっき俺らが呼んでも無視したよな」

反応する仁と小山内、応えない一穂。
にっこりと笑いかけ

 

「覚えてろよ」

 

怯える様子のない一穂。

「いくぞ」
と、仁が立ち上がる。剣道部員の舌打ちが聞こえる
三人、柔道部の外へ出た。
==============
仁の答え仁が柔道部部室に行きたく無かった理由剣道部の連中が下衆なのは十分判った更にさっきの様子から一穂は自分がターゲットになった旨を理解する。円城寺と小山内兄が先導一穂は後ろから付いていく。
「気にするな」

「いや、アイツらを放置するより監視できる方がマシだと思っていたが、監視すら満足に出来なかったのは事実だ」

「うちの学校の生徒は必ず何処かの部に入部させられる。円城寺は特例で除外されているが、また何処かに入れと言われたらそんときゃ柔道部へこい! 今度こそ叩きのめしててやる!」

と、柔道部へ嬉しそうに勧誘した
===========
運動系部室用のプレハブから校庭へ出ると、校舎前方二階に上がる階段に差し掛かる。小山内と一階で別れると、仁は後ろにいる一穂に話しかけた
剣道部と何かあったのか?
黙ってついて来ていた一穂(剣道部と関わるな、か)
お前が俺の質問に答えてねーのに何で俺がお前の質問にこたえなきゃなんねーんだよ
……

反対していない

いくら言葉で反対して無いって言おうが、六回もすっぽかされた上、今だに会えない方からすれば、そんな返事誰が信じる?
たった一ヵ月に一回、一、二時間。それに毎回付き合えって訳じゃない。なのに来ると約束しながら一度も来ない。お袋からすれば、再婚に反対なのに言えないんじゃないか?としか思えないだろ。
仁は大きなため息を付く
そんなつもりは無いけどそう取るなら仕方ない。
仕方ないって…?
それと、高橋へは
「復帰は無い」

と言っておいてくれ
と言うと、仁は一穂の返事を聞かないまま、自身の教室に繋がる廊下を行く。
一穂は今度は追いかけず、そのまま仁を見送った。
音楽室は四階にある。窓から差し込む西日の光が踊り場をオレンジ色に染め上げる。階段を一つ一つ登って行く。
一穂は円城寺仁が何故食事会に来ないかが知りたかった。
転校までして仁に理由を聞きに来た。
来ない理由さえ分かれば問題が全て解決出来るものと思っていた。
だが結果は、本人の口から答えを聞いても、何も解決しなかった。(俺は何を期待した?)
なぜ理由を知れば解決出来ると考えた?
自分は何を解決したかった?どうなれば自分は納得する?自分の中にある問題は全て円城寺お袋の前に現れないせいだと思っていた。
自分は今まで、お袋の事だけ考えていた。次に親父さんや若菜ちゃん。でも今は吹奏楽部のことも考えている。要は俺と円城寺の優先順位が違う家族に対する考え方が違うのか
当たり前だけど理解出来ていなかったただそれだけのことだった
===============
※仁は師匠宅
==========
昔話(仁しか知らない事)
==========
先輩対仁=非公開(先輩の恨みの元事件)
非公開試合?お前と同じくらいの年の子がどうしても、とせがまれて叶わんと、お前が相手をしてやれ 自己責任で好きなようにやらせてくれるんだろ?木刀を持つオブザーバー防具も無い仁に襲い掛かる
=============
高橋に報告高橋の心情…廊下に出ると取り囲まれる
=================
稔の事情
=============
俺は兄ちゃんみたいに強くない
ちやほやされるような人気も無い
金だってない
俺は何にもないから誰かにまとわりつくしかないこうするしかないのに
最初っから強い虐められたことが無い兄ちゃんに分かるかよ!
========

 

 

 

 

==============
吹奏楽部、ミーティング終わり
若菜は今日は兄のカレーの日だと報告
凄いよね、家族の夕飯作るって、買わないで自炊するって
あ、でも今日はおにいちゃんの当番の日だから
お兄さんもご飯作るの!
うん、よくカレーは3日寝かせると美味しいっていうけどうちはおにいちゃんが作る時は3日連続カレーの日

靴箱にメッセージ、丹波らと別れ、一人呼び出しに応じる一穂
================
一穂が戻らない理由を知るう

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